2019年03月21日
〈Yes or No - 喜久村徳男・前田比呂也絵画展〉に寄せて
―分離と結合の断片 ―
〈Yes or No - 喜久村徳男・前田比呂也絵画展〉に寄せて
北谷町にあるギャラリープルミエで開催した〈Yes or No - 喜久村徳男・前田比呂也絵画展〉は、1957年以降から活動を始めた喜久村徳男と1982年から活動を始めた前田比呂也の、二人のアーティストの作品展である。同時代を生きる表現者として、また人体を抽象的、あるいは断片的に表現するアーティストとして、二人の相違点を見ることができる本展は沖縄の美術を考える上で、重要な展覧会であった。
平面作品を主に手がける喜久村は、一貫して人体をモチーフとしている。喜久村の創作の原点とみられる《少女》(1961年)は、おかっぱ頭の痩せこけた強い眼差しの少女像で、喜久村本人はこれを自画像という。よく見ると鼻や口が塞がっていて、ままならない身体のペーソスが漂う。これは喜久村が幼少期に、台湾疎開で不条理な差別を目の当たりにした記憶と繋がっている。この《少女》から、喜久村の描く人体は常に人間の尊厳を問い直し、1980年代以降はフランシス・ベーコンを彷彿とさせる、ねじれた人物像を描いている。外部からの暴力による “ねじれ”ではなく、人権を抑圧された側がその悲しみから自らを内観する“ねじれ”である。
また前田の方は、少し異色な作家である。家業の漆芸はもとより、1982年の第34回沖展では彫刻作品《ター坊》で入選。翌年の第35回沖展では絵画・彫刻・漆芸の三部門に入選を果たすなど、若年期から将来を嘱望されていた。現在は、漆芸と油彩画とを並行して表現活動を続けている。前田の得意とする人体描写の《かぜ》(1992年、三幅対)は、キャンバスの中で窮屈に折り曲がった、ひどく痩せた人体をよじらせている。喜久村との相似点をここに認めつつ、しかし喜久村の描写は内観的であるのに対して、前田は人体を形象的な構造の関係性で捉えている。
展示会場は12~15メートルほどの壁面ではあるが、会場に入ってすぐ二人の平面世界に圧倒された。計40点ほど二人の活動期ごとの特徴的な作品が紹介されていたが、そのような意味では回顧展ともいえる。しかしそれだけではない。前述からのとおり、人体描写の特質から引き出された二人のアーティストの表現を、油彩画やアクリル画、紙漉きや漆のパネルといった多種多様な作品群で、垣間見れたことも特筆に値する。素材をそのものの意味から分離し、また結合し直した作品としては、喜久村の近作《混沌》も興味深かった。本作品は、コピーで布か紙のしわを転写した画像や迷彩色の布、鏡など既に在る素材で画面構成されている。一方、前田の《Yes or No》(2019年)という作品は、棒状の廃材をパネルへ縦に配置した上に、カラースプレーでステンシルを施している。廃材であるがゆえの木目の粗さが、スプレーによる色面とかい離してレイヤー化している。‘Yes or No’という二項対立的な作品のタイトルと、このレイヤーには特別の意味があるように想像し、喜久村と前田の作品それぞれに、二項対立的な状況への諦念とそれに抗う強さを感じる。また断片化した素材は、身体の断片へとイメージが広がる。そして、それらがなす形象の世界へと、再び私たちを誘ってくれるのである。
沖縄県立博物館・美術館主任学芸員 豊見山 愛
喜久村徳男「少女」1961年
前田比呂也「かぜ」1992年
喜久村徳男:中央「混沌」 前田比呂也:右左「Yes or No」2019年
※作品画像をクリックすると拡大されます。
〈Yes or No - 喜久村徳男・前田比呂也絵画展〉に寄せて
北谷町にあるギャラリープルミエで開催した〈Yes or No - 喜久村徳男・前田比呂也絵画展〉は、1957年以降から活動を始めた喜久村徳男と1982年から活動を始めた前田比呂也の、二人のアーティストの作品展である。同時代を生きる表現者として、また人体を抽象的、あるいは断片的に表現するアーティストとして、二人の相違点を見ることができる本展は沖縄の美術を考える上で、重要な展覧会であった。
平面作品を主に手がける喜久村は、一貫して人体をモチーフとしている。喜久村の創作の原点とみられる《少女》(1961年)は、おかっぱ頭の痩せこけた強い眼差しの少女像で、喜久村本人はこれを自画像という。よく見ると鼻や口が塞がっていて、ままならない身体のペーソスが漂う。これは喜久村が幼少期に、台湾疎開で不条理な差別を目の当たりにした記憶と繋がっている。この《少女》から、喜久村の描く人体は常に人間の尊厳を問い直し、1980年代以降はフランシス・ベーコンを彷彿とさせる、ねじれた人物像を描いている。外部からの暴力による “ねじれ”ではなく、人権を抑圧された側がその悲しみから自らを内観する“ねじれ”である。
また前田の方は、少し異色な作家である。家業の漆芸はもとより、1982年の第34回沖展では彫刻作品《ター坊》で入選。翌年の第35回沖展では絵画・彫刻・漆芸の三部門に入選を果たすなど、若年期から将来を嘱望されていた。現在は、漆芸と油彩画とを並行して表現活動を続けている。前田の得意とする人体描写の《かぜ》(1992年、三幅対)は、キャンバスの中で窮屈に折り曲がった、ひどく痩せた人体をよじらせている。喜久村との相似点をここに認めつつ、しかし喜久村の描写は内観的であるのに対して、前田は人体を形象的な構造の関係性で捉えている。
展示会場は12~15メートルほどの壁面ではあるが、会場に入ってすぐ二人の平面世界に圧倒された。計40点ほど二人の活動期ごとの特徴的な作品が紹介されていたが、そのような意味では回顧展ともいえる。しかしそれだけではない。前述からのとおり、人体描写の特質から引き出された二人のアーティストの表現を、油彩画やアクリル画、紙漉きや漆のパネルといった多種多様な作品群で、垣間見れたことも特筆に値する。素材をそのものの意味から分離し、また結合し直した作品としては、喜久村の近作《混沌》も興味深かった。本作品は、コピーで布か紙のしわを転写した画像や迷彩色の布、鏡など既に在る素材で画面構成されている。一方、前田の《Yes or No》(2019年)という作品は、棒状の廃材をパネルへ縦に配置した上に、カラースプレーでステンシルを施している。廃材であるがゆえの木目の粗さが、スプレーによる色面とかい離してレイヤー化している。‘Yes or No’という二項対立的な作品のタイトルと、このレイヤーには特別の意味があるように想像し、喜久村と前田の作品それぞれに、二項対立的な状況への諦念とそれに抗う強さを感じる。また断片化した素材は、身体の断片へとイメージが広がる。そして、それらがなす形象の世界へと、再び私たちを誘ってくれるのである。
沖縄県立博物館・美術館主任学芸員 豊見山 愛
喜久村徳男「少女」1961年
前田比呂也「かぜ」1992年
喜久村徳男:中央「混沌」 前田比呂也:右左「Yes or No」2019年
※作品画像をクリックすると拡大されます。
2019年03月19日
喜久村徳男・前田比呂也 絵画展終了いたしました。
喜久村徳男・前田比呂也 絵画展終了いたしました。
今回の展覧会は、新聞社2社に大きく取り上げられたお蔭で最終日まで大勢の方々にお越しいただき感謝申し上げます。
両作者も作品を発表することで、作品を客観的に見ることが出来新たな発見が生まれるというお言葉に企画した役割を果たせたかなという思いです。
展覧会期間中のいろんな刺激から次に繋がる作品が生まれますよう期待して終了いたします。
琉球新報 3月14日(金) 展評 執筆者:屋良朝彦(沖縄県美術家連盟会長)
会期:2019年3月12日(火)~18日(月)
会場:ギャラリープルミエ
Facebook https://www.facebook.com/GalleryPremier/
今回の展覧会は、新聞社2社に大きく取り上げられたお蔭で最終日まで大勢の方々にお越しいただき感謝申し上げます。
両作者も作品を発表することで、作品を客観的に見ることが出来新たな発見が生まれるというお言葉に企画した役割を果たせたかなという思いです。
展覧会期間中のいろんな刺激から次に繋がる作品が生まれますよう期待して終了いたします。
琉球新報 3月14日(金) 展評 執筆者:屋良朝彦(沖縄県美術家連盟会長)
会期:2019年3月12日(火)~18日(月)
会場:ギャラリープルミエ
Facebook https://www.facebook.com/GalleryPremier/
2019年03月17日
喜久村徳男・前田比呂也 絵画展あと2日
喜久村徳男・前田比呂也 絵画展も残り2日となりました。
15日(金)には、盛大なパーティーもあり県内美術関係者が多く集い有意義な時間となりました。
世代の違う二人の作家が共鳴し合いながらも、互いを認め自己を確認する通過点になっているような・・・
展示会はまだ続きます!最終日までどのような出会いが待っているのか楽しみです。
会期は3月18日(月)まで
会期:2019年3月12日(火)~18日(月)まで
会場:ギャラリープルミエ
Facebook https://www.facebook.com/GalleryPremier/
15日(金)には、盛大なパーティーもあり県内美術関係者が多く集い有意義な時間となりました。
世代の違う二人の作家が共鳴し合いながらも、互いを認め自己を確認する通過点になっているような・・・
展示会はまだ続きます!最終日までどのような出会いが待っているのか楽しみです。
会期は3月18日(月)まで
会期:2019年3月12日(火)~18日(月)まで
会場:ギャラリープルミエ
Facebook https://www.facebook.com/GalleryPremier/
2019年03月12日
喜久村徳男・前田比呂也 絵画展初日!
喜久村徳男・前田比呂也 絵画展
本日、展覧会初日に沖縄タイムスにお二人の対談記事が掲載されました。
2019年3月12日記事
会期:2019年3月12日~18日 11:00AM~7:00PM (最終日は5:00PMまで)
会場:ギャラリープルミエ
沖縄県中頭郡北谷町上勢頭811-3
TEL 098-983-7332
本日、展覧会初日に沖縄タイムスにお二人の対談記事が掲載されました。
2019年3月12日記事
会期:2019年3月12日~18日 11:00AM~7:00PM (最終日は5:00PMまで)
会場:ギャラリープルミエ
沖縄県中頭郡北谷町上勢頭811-3
TEL 098-983-7332